カナダ留学をはじめたら、シェアハウスやアパートなど、なんらかの形で部屋を借りますよね。
その際に絶対に知っておいたほうがいいのが、「借主(英語でtenant)を守るための法律」です。
なぜなら、英語に不慣れで法律にもあまり詳しくない留学生をだまし、不当な契約を結ばせたり、理不尽な扱いをしてくる貸主もいるからです。
そこで今回は、バンクーバーのあるブリティッシュ・コロンビア(BC)州が定める、借主を守るための法律をいくつかご紹介します。
これからバンクーバー留学をはじめる人は、ぜひ部屋を借りる前にこの情報をチェックしてくださいね。
留意事項
この記事は、カナダ・BC州政府の公式ウェブサイト(Housing and tenancy | British Columbia)をもとに、留学生に関連しそうな法律などを抜粋してまとめたものです。また、情報は2023年5月23日現在のものです。最新の情報は公式ウェブサイトをご確認ください。
このページの目次
入居前に知っておきたいBC州の法律
入居前には、お金の支払いや賃貸契約の締結などやることがたくさんあります。
手続きでトラブルを防ぐには、どういった法律を知っておくとよいのでしょうか?
ここでは、入居前に知っておきたいBC州の重要な法律・ルールをいくつか取り上げます。
契約書の作成は家主の義務
シェアハウスなどを借りる際、家主には契約書の作成が義務付けられています。
よって、入居前に必ず書面で契約を交わしましょう。
なかには、理由をつけて契約書の作成を拒む家主もいるので注意してください。
なお、家主が契約書を作成しない場合でも、賃貸契約の標準的な条項は適用になります。
また、次に説明するデポジットを支払えば、たとえ紙の賃貸契約書がなく、借主が入居をしない場合でも賃貸契約は成立します。
契約期間は2種類ある
賃貸の契約期間は以下の2種類があります。
賃貸の契約期間
❶Fixed-term
Fixed-termとは、特定の期間(1年、1カ月、1週間など)に設定された賃貸契約です。
契約は、上記期間より早く終了させることができません。※
※例外として、以下の3つのケースのいずれかに当てはまれば、契約期間満了前に契約を終了させることができます。
契約期間を早められるケース
- 両当事者が書面で合意した場合
- 借主が家庭内暴力から逃れている、借主が長期介護が必要であると評価された、または長期介護施設に入所することが決まった、などの特別な事情がある場合
- 仲裁人(arbitrator)の命令による場合
❷Periodic
Periodicとは、特定の終了日がない賃貸契約のことです。
貸主または借主が通知を出すか、両者が賃貸契約の終了を決定するまで契約は継続されます。
Periodicで代表的なのはmonth-to-month(月単位)契約です。
デポジット(敷金)の上限は家賃の50%まで
デポジット(英語でSecurity deposit またはDamage depositと呼ばれる)とは、日本でいう「敷金」のようなものです。
BC州では、この金額の上限は初月家賃の50%までと決まっています(家賃を途中で値上げしても、デポジットの金額は同じ)。
たとえば月額家賃が800ドルの場合、デポジットの上限は400ドルです。
それ以上のデポジットを求められたら違法ですので、金額をよく確認しましょう。
入居時は家主と物件の状態チェックをする
賃貸契約の開始時には、家主と借主が一緒に入居する部屋を検査する必要があります(退去時も同様)。
これは「ウォークスルー(walk-through)」と呼ばれることもあります。
ウォークスルーは、以下の条件のもとで行わなければいけません。
ウォークスルーを行う条件
- 部屋が空っぽのときに行う
- 前の入居者が退去した後、新しい入居者が入居する前に行う
これは、入居者にとっては入居前からあった部屋の汚損を自分の責任にされないために重要なプロセスです。
悪徳な家主の場合、入居者がつけた傷や汚れだと主張してデポジットを返却しないケースがあります。
不要なトラブルを防ぐために、入居前の部屋の状態をよく確認しましょう。
SINナンバーを聞かれることもあるが教えなくてもよい
物件によっては、申し込みの際に個人情報や収入などを聞かれることがあります。
これは、家主が入居希望者の人物確認や家賃の支払い能力があるかなどを確認するためのプロセスです。
実際に私も、バンクーバーでアパートを借りる際に、不動産会社からSINナンバー(社会保険番号)を聞かれました。
しかし、SINナンバーの開示は借主の義務ではありません(同時に、家主がSINナンバーを聞くこと自体は違法ではないが、開示を強制することもできません)。
実際に電話などでSINナンバーを聞き出し悪用する詐欺は横行しているので、不安に思うのであれば教えなくても構いません。
なお、個人情報の使用はプライバシーに関する法律で定められているため、家主は収集した情報を賃貸契約と無関係なことに使用することはできません。
また、クレジットカード番号のような、共有することが不合理な情報を求めることもできません。
入居前の鍵の交換費用は家主持ち
借主は、前の入居者が出入りしないように、入居前に鍵の交換を依頼することができます。
家主はこの要求に応じる必要があり、関連する費用を負担する責任があります。
ただし、入居後に鍵を紛失した場合、借主が新しい鍵の作成費用を支払うことになるのでなくさないように注意しましょう。
参考
- Locks | British Columbia
入居中〜退去時に知っておきたいBC州の法律
入居中や退去時にも、さまざまなトラブルが起こる可能性があります。
ここでは入居中や退去時によくあるトラブルなどの事例と、その際に知っておくとよいBC州の法律などをご紹介します。
緊急で家の設備の修理が必要な場合は?
暖房システムに不具合があるなど、緊急で家の設備の修理が必要な場合は、家主に連絡をし対応を依頼することができます(修理費用も家主が負担)。
緊急修理(Emergency repairs)を依頼できるものの例は以下のとおりです。
緊急修理を依頼できるものの例
- 配管からの大きな水漏れ
- 屋根からの大きな雨漏り
- 水栓金具の破損
- 主要な暖房器具の不具合
- 電気系統の不具合
- 鍵の破損や不具合により、住戸内の安全性が確保できない場合
緊急ではない通常の修理の場合でも、家主には対応の義務があります。
もしも住んでいるときに困り事が発生したら、家主に連絡をしましょう。
注意
入居者自身やゲスト、ペットによって引き起こされた物件へのダメージについては、家主の責任の範囲外です。
家賃の値上げに関する法律
長く住んでいると、家主から家賃の値上げを告げられることもあります。
しかしこの値上げに関しても細かいルールがあり、知らないでいると違法な値上げに応じることになりかねないのでご注意ください。
家賃値上げには上限がある
住宅用のテナントの場合、2023年の家賃値上げの上限は2%までです。
たとえば、家賃が1000ドルだとしたら、20ドルまでの値上げは認められています。
家賃を値上げできるタイミングがある
また、いつでも家賃を値上げできるわけではありません。
家主は12か月の間に1度だけ家賃を上げることができます。
そして家賃の値上げは、以下の日付から12か月後にしか行えません。
重要な日付
- 現在の家賃が既存のテナントとの間で設定された日
- 最後に合法的に家賃が値上げされた日
このルールは、新しい家主や譲渡による新しいテナントがいる場合にも適用されます。
家賃を値上げする前には告知が必要
家主は、家賃を値上げする3か月前までに借主に告知をしなくてはいけません。
たとえば、入居者が毎月1日に家賃を支払っていて、家主が1月15日に賃料の値上げを通知するとします。
その場合借主は、5月1日から値上げ金額が適用された家賃を支払うことになります。
また、通知は正式なフォームを使って行わなくてはいけません(フォームは下記リンクからダウンロードできる)。
突然退去を言い渡されたら?
「シェアハウスに家族を住まわせることになった」「家を売ることにした」などの理由で、家主からシェアハウスの退去を求められることがあります。
ただしこれも突然行うことはできず、ルールがあるのでチェックしておきましょう。
通知の時期と通知方法
家主は、家主やその近親者※が物件に住むことになる2か月前までに、入居者に所定のフォーム(Two Month Notice to End Tenancy)で通知をしなくてはなりません。
近親者の定義
この法律での近親者は、家主または家主の配偶者の親または子供のことを指します。兄弟姉妹は近親者とは見なされません。
もしも退去を言い渡されたら、所定のフォームで所定の時期までに通知がなされているかを確認してください(フォームは下記リンクからダウンロードできる)。
早期退去もできる(month-to-month契約の場合)
借主は、上記の方法で2か月前までに退去を言い渡されたら、早期退去ができます(month-to-month契約の場合)。
ただし、退去の10日前までに書面で退去を通知し、退去日までの家賃を支払う必要があるので覚えておきましょう。
借主から早期退去の連絡を受けたら、家主は以下のことをしなければなりません。
家主が行うこと
- 借主に1か月分の家賃を支払う(家賃補償をする決まりがある)
- 借主が住まなくなった月の家賃の一部を返還する
たとえば、家主が7月31日に借主に対し2か月前の退去予告を出すとします(=賃貸契約は9月30日に終了)。
それを受けて借主が8月1日に残りの滞在期間分の家賃を全額支払い、さらに8月11日までに退去することを10日前に書面で家主に通知したとしましょう。
その場合、家主は9月30日までに、借主に9月分の1か月分の家賃を支払い、8月分の20日分の家賃を返却することになります。
Fixed-term契約の場合
Fixed-term契約の場合は、先に説明した特定の状況においてのみ早期に賃貸契約を終了することができます。
2か月前の賃貸契約終了通知を出すには、家主が退去日をFixed-term契約で定められた終了日以降に設定する必要があります。
また家主は、契約終了日以前に、借主に1か月分の家賃を補償しなければなりません。
デポジットを返却してもらうプロセス
入居時に支払うデポジットですが、退去時に物件に汚損などがなければ全額返金してもらえます。
このデポジット返却にもルールがあるので、ご紹介します。
家主に新しい住所を教える
家主と退去時の部屋の状態チェックをしたあと、1年以内に書面で家主に引っ越し先の住所を伝えます。
BC州政府のウェブサイトでは、Eメールやテキストではなく、手紙で住所を伝えることを推奨しています。
デポジットを返却してもらう
家主は借主から新住所の連絡を受けて15日以内に、以下3つの選択肢のうちのいずれかの対応を取ります。
家主の対応
- デポジットを返却
- デポジットの一部または全額を預かる(=一部または全額を返却しない)ことに借主が同意する書面を入手
- デポジットを預かる命令をRTB(Residential Tenancy Branch)に申請する
家主は借主の同意書やRTBからの命令がない限り、デポジットの一部や全額を預かることはできません。
BC州の法律が適用にならない場合
BC州での賃貸住宅に関する決めごとは、Residential Tenancy Act(BC州居住用借家法)という法律により定められています。
しかし賃貸の形態などにより、この法律が適用にならない場合もあります。
法律適用外となるケースの全ては、以下のリンクからご確認ください。
ここでは、留学生に当てはまる可能性が高い、以下の3つのケースを取り上げます。
物件のオーナーとバスルームまたはキッチンをシェアしている場合
借りている物件のオーナーとバスルームまたはキッチンをシェアしている場合、「家主と借主」という関係ではなく「同居人」と見なされ、法律の適用範囲外となります。
ルームメイト間でのもめごとの場合
ルームメイト間でのもめごとも、この法律の適用範囲外です。
学生寮の場合
学生寮など教育機関が所有または運営し、その教育機関の学生または職員に提供する居住用宿泊施設には、この法律は適用されません。
ただし、大学が学生や大学の職員以外の個人に宿泊施設を提供する場合、借家契約が成立していれば、同法が適用される場合があります。
実際にトラブルに巻き込まれた時の相談先
いくら法律を知っていても、賃貸トラブルに巻き込まれることはあります。
そのときに知っておくと便利な相談先をご紹介します。
Residential Tenancy Branch
BC州には、賃貸に関わる問題に対応するRTB:Residential Tenancy Branch(借家事業部)があります。
先にご紹介したResidential Tenancy Act(BC州居住用借家法)のもとで対応できる問題に関しては、こちらの部署に相談が可能です。
RTBに電話をしたりオフィスを訪問したりする場合は、事前に質問を書き留めたり、抱えている問題に関連する書類を持参することが推奨されています。
Residential Tenancy Act(BC州居住用借家法)の対象外の場合
先に説明したBC州の法律が適用にならないケースの場合、どのような対応ができるのでしょうか?
BC州のウェブサイトには、法律の専門家への助言を検討することもできると書いてあります。
具体的には、 Canadian Bar Association – British Columbia Branch が運営するLawyer Referral Service(弁護士紹介サービス)が紹介されています。
このサービスでは、弁護士への電話での15分間の無料法律相談が可能です。
またRTB管轄外の問題のほとんどは、以下の裁判所/法廷で解決することができると説明されています。
裁判所/法廷
- The Civil Resolution Tribunal :5,000ドルまでの金銭的請求を解決することができる
- Small Claims Court :5,001ドル〜35,000ドルの金銭的請求を解決することができる
- The Supreme Court of British Columbia :あらゆる金銭的請求を解決することができる
BC州の賃貸に関する法律を把握しもしもの時に備えよう
今回は、BC州の賃貸に関する法律(部屋を借りる際に知っておくと役立つもの)をいくつかご紹介しました。
法律を完全に覚えておくことは難しいですし、現実には正しく運用されていないこともあるかもしれません。
ただこれらの情報を頭の片隅に置いておけば、もしも何かのトラブルに巻き込まれた時に、自分の身を守ることができるでしょう。
本サイトでは、シェアハウスなどに関する役立つ情報を多数紹介しているので、よかったら他の記事もチェックしてみてくださいね。