2014年からカナダ在住。カナダ人同性パートナーと「ふたりママ」として双子を子育て中。LGBTQ+やジェンダーバイアスをブログ「旅するダンサー自由記」にて発信。カナダでダンススタジオ経営&日本語保育園勤務。多様な家族を伝える絵本「かぞくです」作者。
カナダがとても大切にしている価値観は「多様性への寛容さ」です。
たとえば「性別」「人種」「宗教」のような属性が違う人も受け止める文化がカナダには根付いています。
それはもちろん、性的マイノリティー(=性的少数者 / セクシャルマイノリティー)にとっても同様です。
ではカナダではLGBTQ+の人たちに対してどのような政策をとっていて、どう暮らしやすいのでしょうか?
本記事では、カナダのLGBTQ+事情について詳しく紹介します。
LGBTQ+とは?
LGBTQ+という言葉を、日本のニュースでも見聞きするようになりましたが、これは何を指すのでしょうか?
LGBTの言葉の由来
以前は「LGBT」という言葉が使われていたので、まずはこの「LGBT」から説明しましょう。
以下の4つの言葉の頭文字をつなげたものがLGBTです。
LGBTとは?
- Lesbian(レズビアン=女性同性愛者)
- Gay (ゲイ=男性同性愛者)
- Bisexual(バイセクシャル = 両性愛者)
- Transgender(トランスジェンダー = 身体上の性別に違和感を持った人)
つまり「男性」と「女性」という2つの性だけでは表せない「性的マイノリティー(=性的少数派 / セクシャルマイノリティ)」の人たちを大ざっぱにまとめた言葉になります。
最近では「LGBT」の後ろに「Q+」をつけ「LGBTQ+」という表現が標準になっているので、以下にまとめますね。
- LGBTQ
- 「Q」は「Questioning(クエスチョニング=性自認や性的指向が決まってない人)」と「Queer(クィア=既存する性に当てはまらない人を指す総称)」を指します。
- LGBTQ2
- 「2」は「Two Spirits(2スピリット)」を指します。
※ アメリカ先住民の「ふたつの心(性に縛られない考え方)」を意味する - LGBTQ+
- 「+」をつけることで他にも多様なセクシュアリティがあることを表現しています。
「LGBTQ+」は性的マイノリティーを「象徴」する言葉
「性的少数派」の人というのは、上記で説明したパターンだけではありません。
とはいえ、すべてのパターンを網羅することは難しいですよね。
そのため、LGBTQ+という言葉は「性的マイノリティー」を象徴する言葉として使われていると思っていてください。
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーだけを指すわけじゃないということだね。
用語がいろいろとあるため、すこし難しく見えますが根本はシンプルです。
「LGBTQ+」でも「LGBTQ2」でも、示しているものは同じで「性は多様である」という事実だけですから。
LGBTQ+を象徴するレインボーフラッグ
LGBTQ+を象徴するときに、次の画像のようなレインボーフラッグが使われます。
なぜ「虹色」なのでしょうか?
デザインや使いやすさの観点からレインボーフラッグは6色で表現されていますが、本来の虹には色が無限にありますよね?
つまり「虹=無限にある色」を「無限の個性=多様性」に結びつけているということです。
ちなみにレインボーフラッグの6色には次のような意味が込められています。
レインボーフラッグの色の意味
- 赤: 生命
- 橙: 癒し
- 黄: 太陽
- 緑: 自然
- 青: 調和
- 紫: 精神
カナダのLGBTQ+の権利獲得の歴史
カナダでは現在、同性婚が合法化されています。
今でこそカナダはLGBTQ+にとって暮らしやすい国といわれていますが、そうなったのは比較的最近のことです。
ここではカナダのLGBTQ+の権利獲得の歴史を時系列で紹介します。
【 1977年】ケベック州で性的指向による差別を禁止
1982年に制定されたカナダ憲法(Canadian Charter of Rights and Freedom)では、性的指向は差別を禁止する項目の中には入れられていませんでした。
こちらが1982年の平等に関する内容です。
1982年の15条の内容
全ての個人は、宗教、人種、出身国もしくは民族、皮膚の色、性別、年齢、精神的・身体的障害に関わらず平等に考慮されなければならない。
このように、宗教や人種、性別、年齢、障害などには触れられていますが、性的マイノリティーについては記載がありません。
ところが、カナダのケベック州では47年前の1977年に先駆けて性的指向による差別が禁止されていたのです。
1977年には、カナダで初めてケベック州が性的指向を差別禁止事項の1つとして制定した。
カナダにおけるLGBTの就労をめぐる状況(カナダ:2017年11月)|フォーカス|労働政策研究・研修機構(JILPT)
これは、人種、宗教等、差別を禁止する項目の中に、性的指向が組み入れられたというものです。
【2005年】同性婚がカナダ全土で合法化
2005年にはカナダ全国で同性婚が合法になりました(世界で4番目)。
すごい! 19年前から同性婚ができていたんだ!
同性カップルは異性カップルと同様の配偶者としての権利が認められています(下記参照)。
同性カップルに認められている例
- パートナーが入院した時に配偶者として付き添うこと
- 共同名義で銀行口座を作ったり、納税したりすること
- 養子縁組すること
- ファミリークラスでカナダ永住権を申請すること
どれも、異性カップルに当たり前に認められていることですよね。
ですが、その「当たり前」が認められたのは、2000年以降だったのです。
【2017年】パスポートで性別「x」が選択可能に
LGBTQ+に配慮して、カナダではパスポートの性別欄で「第3の性」を意味する「x(エックス)」を選ぶことができます。
これは7年前の2017年8月から可能になりました。
そして、この措置の導入に際し、移民・難民・市民権相のアフメド・フッセン(Ahmed Hussen)は、次のようにコメントしたのです。
アフメド・フッセンの言葉
パスポートの性別欄に「X」を導入することにより、われわれは性自認や性表現を問わず、全てのカナダ国民に平等を推進するという重要な一歩を踏み出した。
「男性か女性の性別を選ばなければならないこと」の苦痛は、その当事者にならないと理解しにくいはず。
それなのに当事者でないがアフメド・フッセン氏は共感を示し、それを実際に制度にまで反映させました。
カナダ社会の懐の深さを感じるね。
【2017年】カナダ首相が涙の謝罪
今でこそLGBTQ+に理解の深いカナダも、昔は政府による差別、抑圧がありました。
カナダ政府は1950年代以降、同性愛者を公職から追放したり、同性間の性交渉を犯罪として、同性愛者を逮捕してきたのです。
こうした、カナダ政府が過去に行ってきた抑圧と差別に対し、2017年11月28日、ジャスティン・トルドー首相がなんと公式に謝罪を!
世界に感動を与えた、カナダ下院でのトルドー首相による涙を流しながらの謝罪はこちらです。
子どもたちへの呼びかけがあるのですが、その部分で、トルドー首相は涙を拭っています。
その部分や、スピーチが終わった後に、議場全体が総立ちで拍手をしました。
Embed from Getty Imagesスピーチの一部を和訳引用しますね(太字はわたしによる)。
全ての年齢のカナダの、世界中のLGBTQ2のコミュニティの皆さん、あなたは愛されています。
そして私たちはあなたをサポートします。
(中略)
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クウィアーそして2スピリットの皆さん、あなた方が受けていた抑圧に対して、私たちは謝罪します。
政府を、議会を、国民を代表して謝罪します。私たちは間違っていました。お詫びします。この過ちが二度と起こらないことを約束します。
トルドー首相のスピーチ
わたしはスピーチ冒頭の「想像してみてください」という部分に胸を打たれました。
LGBTQ+の人の気持ちは、同じ立場に立たないと理解できないかもしれません。でも、自分のこととして想像することはできます。
差別や偏見に苦しんでいるLGBTQ+当事者の気持ちを想像してみることが、平等な社会への第一歩になります。
カナダのLGBTQ+教育について
カナダではLGBTQ+は教育の場にも取り込まれています。その一部を紹介しましょう。
小学校でレインボーフラッグを掲げることが義務に
カナダの首都オタワや留学先として人気の、トロントなどがあるオンタリオ州。
この州にある小学校では、ジェンダーの平等を意味するレインボー色のフラッグを掲げることを義務付けました。
フラッグを掲げることで彼らへのサポートを表明しているらしいですね。
保健体育の新ガイドラインを採用
また、オンタリオ州では、2015年から保健体育の新ガイドラインを採用されました(参考:Health and Physical Education)。
現地の保健体育の授業では次のようなことを学ぶのだそうです。
新ガイドラインとは?
- ジェンダーアイデンティや性的指向を知る
- メンタルヘルス・ジェンダーを含むアイデンティティを考える授業
自身の体についての授業の他に、LGBTQ+に配慮した性的マイノリティの授業も行われるんだね。
実際には、性的マイノリティーや同性婚をタブー視しているイスラム教やカトリックの一部の親からは反発の声も上がったそうです。
適切なジェンダー教育がこのガイドラインに沿って行われるかは、教師の判断によって異なるようで新たな問題にも直面しているんだとか。
カナダのLGBTQ+事情について
続いて、カナダのLGBTQ+事情について、さまざまな観点からご紹介いたします。
なぜカナダはLGBTQ+フレンドリーなの?
そもそもですが、カナダはなぜLGBTQ+に関してこんなに力を入れているのでしょうか?
カナダがLGBTQ+フレンドリーである理由は、この一点に集約されています。
LGBTQ+フレンドリーである理由
カナダが移民国家であるがゆえ、多様性を認める国民性だから
カナダでレインボーフラッグを掲げている店をまとめた記事もぜひご覧ください。
カナダは移民国家である
カナダ移民省(IRCC)によると、2021年から2023年の3年間をかけて合計120万人以上もの移民を受け入れる計画を発表しました。
カナダでは2019年の時点で全体の約20%が移民です。
つまり、カナダでは世界中から移民を積極的に受け入れているのです。
移民国家であるため多様性を認める文化になった
そんな移民国家カナダでは、人種差別や偏見に対しタブー視しています。
そのため、多様性を認める国民性が自然と根付いたのでしょう。
つまり「みんな違ってみんないい」という国民性が、性的マイノリティの人たちにも暮らしやすいと思われているのです。
カナダに住むLGBTQ+の人たちの割合はどのくらい?
LGBTQ+の人たちは、カナダにどのくらいの割合でいるのでしょうか?
LGBTQ+の人は約100万人(2018年)
カナダ政府が実施している国勢調査をもとにまとめてみました(カナダ国籍のある人を中心に集められたデータです)。
LGBTの総数 | 数値 |
---|---|
ゲイの男性 | 25万5100人 |
レズビアンの女性 | 15万600人 |
バイセクシュアル女性 | 33万2000人 |
バイセクシュアル男性 | 16万1200人 |
(※ カナダ地域保健調査:CCHS の2015年〜2018年のデータ)
カナダ政府の2018年データではLGBTQ+の人々は約100万人いるとされており、15歳以上の総人口の4%を占めているそうです。
同性カップルは全体の0.9%(2016年)
そして、2016年の1年間に結婚したカップルのうち、同性カップルは3分の1だそうです。
2001年以降、カナダでは同性カップルの数が大幅に増加し、2006〜2016年までの10年間で60.7%も増加しました。
全カップルの中での割合を見てみると、同姓カップルは全カップルの0.9%に相当します(2016年国勢調査による)。
同性カップルの人数は72,880組だそう!
ちなみに、カナダの同性カップルの半数は、トロント、モントリオール、バンクーバー、オタワなどの都市部周辺に住んでいるようです。
参考:The Daily — A statistical portrait of Canada's diverse LGBTQ2+ communities
LGBTに配慮した呼称について
カナダでは、LGBTQ+の当事者に配慮した呼称を使う人が増えてきています。
その代表として「parter(パートナー)」と「they(あの人)」を紹介しますね。
配偶者を「partner」と呼ぶ?
日本語では、友達の配偶者、パートナーのことを「奥さん」「旦那さん」「彼女」「彼」のように言いますよね。
こういった呼び方は、性別を固定しています。「旦那さん=男性」のように。
でも、目の前にいる人がレズビアンだった場合「husband(夫)はお元気ですか?」のように聞くと嫌な気持ちにさせてしまいますよね。
それを避けるためカナダでは、性別と関連のない「partner(パートナー)」という単語を使うのが無難だとされています。
Xジェンダーの人を指す「they」とは?
英語では、第三者を指すときに「she(彼女)」や「he(彼)」を主に使います。
この代名詞の問題点は、その人の外見から他人が判断してどちらかを選んでいること。
では、性別にとらわれないXジェンダーの人を指すときはどうすればいいのでしょうか?
「she」を使ったらいいのか「he」を使ったらいいのかわからない!
そこで性別と関連付けられていない言葉「they」が新しく生まれました。
学校で習った「三人称複数形」を指す「they」とは違い「三人称単数形」の「they」です(見た目は同じですが)。
たとえば「あの人は学生です」という場合「They is a student.」のように言いますよ。
この「they」は「Gender Pronouns(ジェンダー代名詞)」と呼ばれ、新しいジェンダーアイデンティを表す表現の1つと言われています。
カナダではLGBTQ+に対する差別はないの?
では、カナダではLGBTQ+に対する差別はないのでしょうか?
残念ながら、まだまだあります。
日本と同じで、都会ほど寛容で、田舎のほうが保守的になる傾向があるようです。
「プライドパレード」について
カナダをはじめ、世界の都市では「Pride Parade(プライドパレード)」というイベントが毎年夏に行われます。
これは、LGBTQ+文化をたたえるパレードのことです。
「10人にプライドパレードの意味を尋ねたら、10通りの答えが返ってくる」
……をテーマに、誰もがありのままの自分を表現できるイベントです。
バンクーバーで開催されたプライドパレードに参加してきたので、そのときの写真とともに紹介しましょう。
カナダでのプライドパレードの歴史
カナダでは1980年代からプライドパレードが開催されています。
バンクーバーの「Pride Parade(プライドパレード)」は2018年での開催がなんと40周年でした。
毎年、50万人から65万人がバンクーバーダウンタウンに集まります。
パレードを含む一週間は「プライド・ウィーク」として、町中にプライドのシンボルであるレインボーカラーがあふれるよ。
こちらは地下鉄駅の携帯電話の広告です。
小旗やうちわなどが配られる
パレードを盛り上げるため、小旗やうちわ、フェイスプリントのシールなどが配られます。
無料で配られるので、ぜひいただいてイベントを盛り上げましょう。
パレードには首相も参加する
カナダのトルドー首相も、プライドパレードに参加します。
トルドー首相が登場するとものすごい歓声です(Photo by Atsuko McNeill /LifeVancouver)。
国のトップがLGBTQ+のイベントに参加するなんて、日本ではまだ考えられませんよね(むしろ否定していますから……)。
トルドー首相は声援に応え、皆に手を振ってくれました。
様々なコスチュームを楽しめる
プライドパレードの参加者は、様々なコスチュームを着てパレードに参加します。
こちらは女王様と魔法使いでしょうか?
ハイテンションでフレンドリーなオオカミもいました(笑)。
ピンクで派手な衣装をまとった方は、カメラに向かってポーズをしてくれましたよ。
フレディ・マーキュリーのコスプレも登場です。
お決まりのポーズでサービスしてくれました。
このように、もはや仮装パレードですね! 見ていてすごく楽しかったです。
「フリーハグ」をやっている人もいましたよ!
パレードにはさまざまな団体も参加
さまざまな企業や、消防署などの公的機関がパレードに参加します。
たとえば、こちらは地元のラジオ局のフロート。
ノリノリで文字どおり「揺れながら」パレードしてました。
消防署からもパレードに参加。
水鉄砲で沿道に水を掛けながら進みます。
水を掛けられた観客も大喜びしていました。
ダンスなどのパフォーマンスで盛り上がる
楽しく、ゆる~くパレードをする団体もあれば、この日のために練習してきたと思われる団体もあります。
こちらはキレのあるダンスを披露していました。
半裸のダンサーの足元はローラーブレードです。
ダンス、ローラーブレードなど、趣向を凝らしたパフォーマンス、すごく楽しいです。
こちらも派手な衣装を来たグループがダンスを踊っています。
ダンスをしながらも、観客に手を振ったりハイタッチをしたりと、サービス満点です。
まとめ
LGBTQ+の概要から、カナダ政府のLGBTQ+への取り組みまで幅広くご紹介しました。
カナダは多様性に富み、誰でもありのままの自分で過ごしていける国です。
そんな優しい文化を持ったカナダを訪れてみませんか?
カナダに夏に来た際には、プライドパレードにもぜひ参加してくださいね。