カナダの公用語は英語とフランス語の2つ

監修者 監修者
末永 真一

カナダ留学コンサルタント、RCA 海外留学アドバイザー No.162002
カナダ在住20年以上のカナダ留学専門家。カナダ留学情報を発信するTwitterアカウントはカナダ以外も含む留学ジャンルでフォロワー数1位(1万人以上)、月間最大インプレッションは400万を超える。現在までサポートしてきた生徒数は1万人以上。

カナダの公用語は何語なのかご存じでしょうか?

「そりゃあ、英語でしょ?」と思いそうですが、実は「フランス語」も公用語で、カナダは2つの公用語を持つ国です。

今回はカナダの公用語について、徹底的に専門家が解説いたします。

カナダにおける2つの公用語

冒頭でも書きましたが、カナダの公用語はこちらの2つです。

カナダの公用語

  • 英語
  • フランス語

2つの公用語とは言っても、すべてのカナダ人が両方の言語を操るという意味ではありません

多くは英語かフランス語かのどちらかを話します。では2つの言語が公用語というのはどういうことでしょうか?

カナダ人が大切にする「バイリンガリズム」

バイリンガリズム(Bilingualism)」という耳なれない言葉があります。

2つの言葉を話す人を「バイリンガル」と呼びますよね?

「バイリンガリズム」とは、直訳すると「二言語併用」のことで、カナダを定義する重要な価値観の1つなのです。

カナダ人は、自分たちの国が、様々な文化と多様性を尊重する国であることに強い誇りを持っているため、バイリンガリズムはカナダの「多文化尊重主義」の核の部分だということです。

こちらが、カナダが国としての方針です。

カナダの方針

  • 英語とフランス語を母国語とする子どもがそれぞれの言語で教育を受けられるようにする
  • カナダの全ての子どもが、英語かフランス語を第二外国語として学べるようにする
  • 行政サービスを英語とフランス語の両方で受けられるようにする

カナダの学校教育における公用語

学校での英語・フランス語の教育は、カナダの2か国語政策の根幹の一つです。

たとえば、英語圏であるブリティッシュ・コロンビア州ではフランス語教育に4つのプログラムを設けています

つまり、子どもたちが英語とフランス語のバイリンガルになることをサポートしています。

こちらはブリティッシュ・コロンビア州でのフランス語教育プログラムをまとめたものです。

BC州のフランス語教育プログラム
コア・フレンチ フランス語の有効なコミュニケーション能力と、フランコフォン文化への理解、関心を高める
インテンシブ・フレンチ 短期間で集中的に確固たるフランス語能力を身につけ、フランコフォン文化への理解、関心を高める
フレンチ・イマージョン イマージョンとは「漬け込み」という意味。フランス語漬けの環境で、生徒はバイリンガルレベルのフランス語力を身につける
フランコフォン・プログラム 全ての教育がフランス語、フランコフォン環境で提供される

表の上から下に行くほど、求められるフランス語レベルが高くなります。

外国語の1教科としてフランス語を勉強することから、全ての科目がフランス語で教えられるところまで、幅広くレベルが設定されています。

幅広い選択肢の中から、子どもたちが自分の興味と能力に応じて選ぶことができるということですね。

フランス語という言語そのものだけでなく、フランコフォン(フランス語話者)文化への理解、関心を高めるところにも重点が置かれているのが素晴らしいですね。

すべての標識・商品パッケージで2カ国語

カナダは、空港などの交通機関の標識で、英語、フランス語の2言語で併記することが義務づけられています

どちらの言語も公用語なので、片方だけというのは問題ですよね。

それだけでなく、商品パッケージでも2言語で表記されているんです。

「商品のパッケージ」という限られたスペースの中で2言語を併用するので、メーカー側の苦労や工夫が見えて面白いです。

例えばこちら、日本でもおなじみのシリアル食品は、商品の表と裏を同じデザインにして、英語とフランス語を使い分けています。

シリアルの英語・フランス語表記

英語と同じ意味のフランス語が書いてあるんだろうな~、とは分かります。

そして、こちらもおなじみのお菓子ですよね。

キットカットの英語・フランス語表記

こちらは、商品表面に英語とフランス語の両方を入れています。こんな感じで書いていますよね。

「クッキー&クリーム」

  • 英語 …… Cookies & Cream
  • フランス語 …… Biscuits et crème

英語とフランス語が並んでいるので、ちょっと勉強になりますね(「ビスケット」ってフランス語だったんだ)。

「ここまでしなくてもいいんじゃないの?」と思われるほどの徹底ぶりですが、英語、もしくはフランス語しか分からない方もいるのです。

日常の買い物(特に食品)や交通機関の利用で、片方の言語しか使えない人が不便を感じないように配慮されているんですね。

カナダの各州で使われているのは?

そんなカナダの2つの公用語ですが、実際にはどのように使われているのでしょうか?

両方が話せる人は17%

カナダ国民の中でどちらも話せる人は約17%、フランス語のみ話す人は13%ほどいるとされています。

どちらの言語が主に使用されているのかは土地によって異なりますが、ケベック州に限ってはフランス語のみを公用語と定めています。

ケベック州の最大都市・モントリオールについて

英語・フランス語を第一言語とする人の数と割合

カナダ国勢調査のデータを基に、州ごとの公用語の割合を見てみましょう。

以下、2016年カナダ国勢調査による、「フランス語を第一言語とする人の数と割合(%)」をご紹介します。

フランス語を第一言語とする人の数と割合(%)
州名 人数 割合
ニューファンドランド&ラブラドール 2,425人 0.5%
プリンス・エドワード・アイランド 4,665人 3.3%
ノヴァ・スコシア 29,370人 3.2%
ニュー・ブランズウィック 234,055人 31.8%
ケベック 6,890,300人 85.4%
オンタリオ 550,600人 4.1%
マニトバ 40,975人 3.2%
サスカチュワン 14,435人 1.3%
アルバータ 79,840人 2.0%
ブリティッシュ・コロンビア 64,325人 1.4%
ユーコン(準州) 1,635人 4.6%
ノースウエスト(準州) 1,240人 3.0%
ヌナブト(準州) 625人 1.8%

一目瞭然で、ケベック州でフランス語を第一言語とする人の割合が突出していますね。

その他では、ニュー・ブランズウィック州の31.8%が目立つほかは全て州の人口の5%以下です。

ケベック州とケベック州以外で比較すると非常にわかりやすいです。

フランス語を第一言語とする人の数と割合
州名 人数 割合
ケベック 6,890,300人 85.4%
ケベック以外の全カナダ 1,024,195人 3.8%

英語だけでもカナダで生活できる

公用語で英語とフランス語が対等に扱われていますが、現実としてほとんどのカナダ人は英語が第一言語のようです。

カナダの英語はアメリカ英語に近いので日本人にとっても勉強しやすいですよ。

ちなみに、ブリティッシュ・コロンビア州では、フランス語が使えないことで困ったことはありません(私のフランス語能力はほぼゼロです)。

ケベック州では事情は違うと思いますが、国勢調査の別の項目では、「英語とフランス語のどちらかが使える」と答えた人がカナダ全体で100%でした。

フランス語を第一言語にする人が多いケベック州でも英語を使って生活することは可能です。

カナダで2カ国語が使われている理由

では、なぜカナダでは英語とフランス語の2つが公用語として使われているのでしょうか?

これには歴史が関わってくるのです。

イギリス VS フランスの植民地争い

その答えはカナダ建国の歴史にあります。

1942年のコロンブスのアメリカ大陸到達から、ヨーロッパ各国がアメリカ大陸に植民地を広げていきました。

そのときに、カナダはイギリスとフランスの2国によって植民地とされました

1600年代初めに、フランスはセントローレンス川流域に「ケベック植民地」を創設し、その後、フランスとイギリスはカナダを巡って敵対するようになります。

その2国の争いに一定の決着が着いたのが1763年。この年に結ばれた「パリ条約」で、フランスはカナダの植民地を手放すことになりました。

フランス語に寛容なイギリス

パリ条約によりイギリスはカナダの「フランス領」を併合しました(つまりカナダがイギリスのものになった)。

とは言っても、フランスからカナダに移り住んだ人々みんながフランスに帰るわけではありません。

ケベック植民地を中心に、フランスの植民地だった地方には引き続き多くのフランス系移民が住んでいました

イギリスはこうしたフランス系の移民たちに寛容であったため、ケベック地方は現在でもフランス語が主に使われていて、宗教面ではカトリック信者が多くなっています。

カナダが独立する

その後、1867年7月1日に、カナダはイギリス領内の自治領となり、実質的に独立しました7月1日は「カナダデー」という記念日です)。

その際に定められた憲法「1867年憲法」において、英語とフランス語の両方が同等なカナダの公用語であると明記されました。

フランス系住民の民族意識の高まり

カナダが独立国となった後も、カナダ国内のフランス文化は維持されていました。

ところが1960年ごろから、カナダ国内はフランス語話者(フランコフォン: francophone)と英語話者(アングロフォン: anglophone)に分かれ始めました。

そしてフランス語話者が多数を占めた「ケベック州」は、カナダからの独立を目指すようになりました。

1980年と1995年にはケベック州のカナダからの独立を問う住民投票が行われ、いずれも分離独立は否決されました。

ですが、1995年の投票はわずか1.2%の僅差での否決でした。

このように、バイリンガリズムと2つの公用語は、カナダ統一の象徴であるとともに、ケベック州の住民にとっては、自らのアイデンティのより所であり、カナダ分裂の火種でもあるのです。

まとめ

いかがでしたか?英語、フランス語の2つの公用語はカナダの多様性と寛容さを象徴するものです。

そして、どちらかの言語しか話せない人を排除するのではなく、どちらの言語を話す人も快適に生活できるように配慮されているのがよく分かりますね。

また、両方の言語が話せる人が増えるように、カナダの仕組みが作られています。

せっかくカナダに留学するのなら、英語だけでなく、フランス語も勉強してみてはどうでしょうか?

超基礎から上級まで、自分に合ったレベルで勉強できますよ。

執筆者 執筆者
末永 真一

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