こんにちは! 発音マニアのヨスです。
日本語を流暢に話しているわたしたちですが、意外とよくわかっていない発音があります。
その中でも代表的なものが「促音」です。
「きっぱり」や「ドッキリ」にも使われている小さい「っ」のことですね。
今回はこの「促音」についてくわしく紹介します。
促音とは?
「促音」と呼ばれるのは、日本語でいう「っ(小さい『つ』)」のことです。

あっ!!
この「っ」ですね。
促音の発音の仕方
日本語を話すときに意識をしていないと思いますが、促音を発音するときはのどが一瞬閉じます。

専門的には「声門破裂音(声門閉鎖音)」と呼ばれます。
「あ」だけを発音するときと違い、「あっ」と発音したとき、のどが詰まるようになりますよね?
たとえば、わたしの大好きなチョコレート「キットカット」とゆっくり発音してみてください。
小さい「っ」を発音するときに、一瞬のどが詰まるようになるはずです。
ちなみに、「促音」の「促」という言葉ですが、「つまる」という意味をもちます。
日本語にある「促音」の例
では日本語にある「促音」の例を見てみましょう。
促音の例
- あっ!
- さっぱり
- きって(切手)
- がっちり
- ガッツ
- けっこん(結婚)
- けっさん(決算)
- けっしん(決心)
- らっか(落下)
- マッハ
- チューリッヒ
- ワッフル
はっきり言って、かなりたくさんの言葉が存在します。
日本語の促音にあるルール
お次は、日本語の「促音」のルールを紹介します。
日本人は無意識にやっていますが、こんなにルールがあるんです。
リズム的に1拍分
日本語の促音の最も大きな特徴が、「拍」です。
「拍」という概念はちょっと説明が難しいですが、たとえば「キットカット」と発音してみてください。
こんなふうに「1つの音」のタイミングで手を叩くと分かりやすいでしょう。

手を6回叩けましたか?「キットカット」という言葉を発音するときには6拍で発音するということです。
日本語の「促音」は1拍とカウントされる
つまり、日本語の「促音」は1拍とカウントされます。
たとえば俳句や短歌を読み上げるときの数え方を思い出してみてください。
「切符(きっぷ)」だと3文字、「ホップステップジャンプ」なら10文字でカウントしますよね?。
拗音(小さな「ゃ」)は1文字(1拍)になりません。2文字ですが「じゃ」で1つの音です!!
英語の「KitKat」の発音は2拍
「促音は1拍」という話をするとこんなふうに思われるでしょう。

いや、なにを当たり前のことを言ってんの?
ところが、これは日本語らしい特徴で、英語で「KitKat(キットカット)」を発音しても6拍にはなりません。
なんと、「KitKat」はたった2拍で発音されます。

英語の「拍」は文字では読み取りにくいですが、3文字で1拍(子音+母音+子音)というパターンが多いです。
くらべてみると、この差です。

後ろにくる発音の用意をしておく
さらに促音を発音するときには、次につづく音の準備をするのも特徴です。
先ほど紹介した「キットカット」ですが、「ッ」の発音をするときに止めてみてください。
舌が上前歯の後ろあたりにきていませんか? じつはこれ、あとに続く「ト」の発音の準備をしているのです。
うしろに来る音声で「舌の位置(口の中のかまえ)」が違う
つまり、「促音」の後に来る音声によって「促音」を発音するときの舌の位置が変わるということ。
こちらの言葉で「促音」の舌の位置(口の中のかまえ)を確認してみるとおもしろいと思います。
促音の例
- あっ!
- さっぱり
- きって(切手)
- がっちり
- ガッツ
- けっこん(結婚)
- けっさん(決算)
- けっしん(決心)
- らっか(落下)
- マッハ
- チューリッヒ
- ワッフル
この特徴は「ん(撥音)」と同じですね。
後ろに何も続かないとき・ [ h ] が続くとき
上で紹介した例の中でも、こちらの2つのときは舌や口の中は動かしません。
舌を動かさない例
- 後ろに何も続かないとき
- うしろに [ h ] の音が続くとき
たとえば、「あっ!」と言ったとき、後ろには何も言葉が続きませんよね。
こんなときは声門が一瞬閉鎖するだけでどこも動かしません。

だって、次の発音の準備がいりませんから。
うしろに [ h ] が続くときの促音も、 [ h ] の発音が声門しか使わないため、準備の必要がありません。
たとえばこんな単語の促音は舌や口の中を動かしませんよ。
[ h ] の前に来る促音
- マッハ
- バッハ
- ザッハトルテ
促音は語頭にこない
そして、促音は語頭にはこないという特徴があります。
単語として語頭にこないだけで発音は可能
語頭に促音がくる単語が存在しないだけで、日常では使われることがあります。
たとえばこちら。
「っあ!」
こんな発音ですね。
大事なことを忘れていて思い出した瞬間に「っあ!」と言う人もいると思います(←わたしがそう)。
促音は種類としては「子音」に分類されるため、語頭でも発音できるのです。
厳密には一拍を取らないため、「促音」の定義に当てはまりません。そのため「声門破裂音(声門閉鎖音)」と呼ぶのが正しいです。
【参考】琉球諸語には「っ」が語頭にくることが普通にある
さらに言うと、琉球諸語(沖縄独自の言語)では、語頭に促音をつけて日常的に使われるそうです。
沖縄の友達ヒガシーサーさんに聞いたのですが、こんな使われ方をするそうです。
標準の日本語 | 琉球語 |
---|---|
そうなの? | んじ? |
そうだったよなっ?! | っんじ?! |
「そうなの?」というときに「んじ?」と言うそうですが、促音を頭につけて「っんじ?!」になると「そうだったよな?!」というふうにニュアンスが変わるようです。

というか語頭に「ん」がくることですらスゴイ!
さらには、ニュアンスが違うどころか意味の分別にも関わってくるそうです。
通常の音 | 声門破裂音あり |
---|---|
わー [ waː ] (私の) |
っわー [ ʔwaː ] (豚) |
やー [ jaː ] (家) |
っやー [ ʔjaː ] (お前) |
厳密には一拍を取らないため、「促音」の定義に当てはまりません。そのため「声門破裂音(声門閉鎖音)」と呼ぶのが正しいです。
くわしくは沖縄国際大学うちなーぐち講師の比嘉光龍さんの書籍が参考になります。
「母音」や「有声子音」の前にはこない
日本語の促音は、母音や有声子音の前にはこないというルールもあります。
つまり、「っ」のあとに「あ・い・う・え・お」や「マ行・ザ行」などはきません。
有声子音の前にはこない
- がっごう
- がっこう
外来語の場合は促音のあとに濁音がくる
ただし、外来語なら「っ」のあとに濁音もきます。たとえば「バッグ」のように。
でも発音するときは「バッグ」「ベッド」ではなく「バック」「ベット」と発音していませんか?
つまり、日本語のなかで「促音+有声子音」は発音しにくいので、無声化することが多いということですね。
ちなみに、「 ゛(濁点)」がついてませんが、「な行」「ま行」「や行」「ら行」も有声子音になります。
【参考】「っ」のあとは連濁しない
日本語には「連濁」という現象があります。

「大」+「太鼓」がくっつくと「大太鼓」のように音が濁る現象です。
連濁になる条件がそろっていても、「促音」のあとだと連濁になりません。
「ひとりっ子」は「ひとりっご」とは読まないということですね!
促音の後ろに来る「ざ行」は破擦音になる
促音の後ろに「ざ行」がくるときには「ある現象」が起こります。
それは、摩擦音である「ざ行」が、破擦音に変化すること。
ちょっとマニアックですが、くわしくはこちらの記事をどうぞ。
促音のあとの子音は「無気音」になる
さらにマニアックですが、促音のあとにくる子音の発音が「無気音」になります。
促音の「ッ」の後では呼気をほとんどともなわず,中国語の無気音にかなり近くなります。例えば「真っ赤」の「カ」,「買った」の「タ」,「ラッパ」の「パ」はそれぞれ中国語のga,da,baに近似しています。これは促音を言うときに喉を詰めるからでしょう。
東外大言語モジュール|中国語|発音|実践編 1 サバイバルのためにこれだけは 4 有気音と無気音 01より引用しました。
日本語では有気音・有気音の区別がないので人によって違いますが、そういう傾向があるということですね。
促音のアルファベット表記
では、促音のアルファベット表記についても見てみましょう。
促音のアルファベット表記
促音をアルファベット表記するときには、子音を2つ重ねて書きます。
たとえば「ラッパ」なら「rappa」のように書きますよ。
ポイントは「っ」のあとにくる音
はじめてローマ字を習ったときには、どのアルファベットを重ねたらいいのかちょっと混乱しますよね。
そんなときには、「っ」のあとにくるアルファベットを重ねると覚えておいてください。
「っ」のあとにくる言葉
- どっきり(dokkiri)
- どっさり(dossari)
- ぱったり(pattari)
- さっぱり(sappari)
もう一度言いますが、書くのは「っ」のあとのアルファベットですよ!
英語に促音はあるの?
さて、日本語の促音についてみてきましたが、英語にも促音はあるのでしょうか?
じつは英語には「促音」は存在しません。
一見「促音」に見えるスペルも促音じゃない
でも、英語にはこんなスペルの単語がありますよね。
英語のスペル
- hitting
- digging
- running
これらは促音では読みません。よくカタカナ英語では「hitting」を「ヒッティング」と読みますが、違います。
「hitting」は「ヒティン」のように発音します。

ローマ字のスペルと違って「促音」では読まないんですね!
そもそも、「running」は「 n 」が重なってますし(笑)。促音で読んだら「ラッニン(?)」になりますよね。
カタカナ英語で「ッ」を使う単語も促音じゃない
ほかにもカタカナ英語で、「アップル」のように「ッ」を使う言葉はいっぱいあります。
でも、そのすべてが促音ではありません。
英語 | カタカナ | 発音記号 |
---|---|---|
mix | ミックス | [ míks ] |
bed | ベッド | [ béd ] |
apple | アップル | [ ǽpl ] |
lucky | ラッキー | [ lʌ́ki ] |
dog | ドッグ | [ dɔːg ] |
stop | ストップ | [ stɑ́p ] |
book | ブック | [ búk ] |
発音記号をカタカナ書きにしてみると、「mix(ミクス)」「bed(ベド)」のようになり促音は絶対に入りません。
声門破裂音(声門閉鎖音)は存在する
少しややこしいですが、英語には「促音」はありませんが「声門破裂音(のどを一瞬だけ閉じてのどを詰まらせるように発音する子音)」は存在します。
たとえば困ったときに「おっと……」というニュアンスで使う間投詞「Uh-oh」は声門破裂音が使われます。
Uh-oh [ ʌ́ʔəʊ ]
音声でもどうぞ。
この発音は「アッオゥ」という発音ですが、この「uh」と「oh」の間の発音が、一番わかりやすい英語の声門破裂音でしょう。

ってことは英語にも促音があるじゃないか!
……と思いそうですが、日本語の促音は1拍ぶんの発音が必要なので、英語の声門破裂音とは違うというわけですね!
まとめ
今回は「促音」についてまとめましたが、非常におもしろい子音です。
外国の人が日本語を学ぶときにかなり苦戦する難しい発音でもあります。
たとえば、「Kite(来て)」と「Kitte(切手)」の発音は同じに聞こえるんですよね。
その原因は「拍」のとり方ですが、手拍子を取りながら発音すると概念を理解しやすいかもしれません。