LとRなど発音の聞き分けが「絶望的に難しい」のはなぜ?

ヨス

執筆者

アメリカ留学で言語に興味を持ち、日本語教師の資格をとる。メディアなど掲載多数。著書は2冊。一般的には学ばない「日本語の音声」を学ぶことで英語の発音を習得し、独自の英語の発音習得メソッドを持つ。→ ヨスについてはこちら

英語を勉強しているときに突き当たる大きな壁。それはこの2つの発音の違いではないでしょうか?

難しい2つの発音の違い

この2つの発音は日本人には絶望的に同じに聞こえますが、なぜそこまで難しいのでしょうか?

今回は、「 L 」と「 R 」の発音の聞き分けが日本人にとって難しい理由を紹介します。

発音の聞き分けが難しい理由

では、英語の「 L 」と「 R 」を例に出し、「発音の聞き分け」が難しい理由を紹介しましょう。

そもそも「 L 」と「 R 」は発音として似ている

そもそもですが、「 L 」と「 R 」の発音は似ています

当たり前ですが、発音が似ているから聞き分けが難しいのです。

英語の歴史を見てみると、英単語のなかには「 L 」「 R 」の発音に変化したものや、逆に「 R 」「 L 」の発音に変化したものもあります。

もちろん、この2つの発音が似ていることにほかなりません。

英語史の専門家である堀田隆一 氏は次のようにおっしゃっています。

二つ目は,[r]と [l]を使い分けている話者,たとえば英語の母語話者ですら,両者を代替することがあった.一つの語のなかに [r]が二度も出てくると,口の滑らかな話者ですら舌を噛みそうになる.その場合には,ちょっと舌の位置をずらしてやるほうが,かえって発音しやすいということもありうる.そんなとき,一方の [r]を [l]で発音してはどうだろうか,あるいはその逆はどうだろうか,などという便法が現れた.発音の都合などによって,もともと同音だった二つの音が,あえて異なる音として発音されるようになることを「異化(作用)」 ( dissimilation ) という.

#72. /r/ と /l/ は間違えて当然!?

「似たもの同士」でないと、発音が変化することはありえませんから。

その例として堀田氏は、ラテン語の「peregrīnum (外国人)」が「pilgrim(巡礼者)」という単語に変化した例を紹介しています。

というわけで、そもそも「 L 」と「 R 」の発音は似ているため、聞き間違えてもおかしくないのです。

日本人の耳がおかしいわけでは一切ありません!

どちらも日本語に存在しない音だから

そして、「 L 」と「 R 」の聞き分けが難しいもう1つの理由が、「どちらも日本語に存在しない音」だということです。

これが最大の理由だと言えます。

え? 日本語の「ら行」の発音は「 L 」「 R 」と同じじゃないの?

こんなふうに思われるかもしれませんが、まったく違います!

ときどき「日本語の『ら』は『L』と同じ」のように書いているサイトがありますが、あれは間違っているので信じないでください!!

日本語の「ら行」は「 L 」でも「 R 」でもない独自の子音で、国際音声記号では
[ ɾ ]と表記します。

そのため日本語しか話せない人が聞いたら、こういうことになります。

日本人には「ら行」に聞こえる
「 l 」も「 r 」も日本人には「 ɾ 」に聞こえる

上のイラストのように、「right」でも「light」でも、どちらを聞いても、日本人の耳では「ɾight」だと認識されるんですね。

音声で聞いてみてください。

right」light」right」light」の順に発音しましたが、なかなか違いがわかりませんよね。

日本語の「ら行」の発音記号[ ɾ ]を紹介したのでついでに言っておくと、英語の「 r 」の正式な発音記号は[ ɹ ]と書きます(ややこしいので「 r 」で説明しています)。

「日本語にない発音」が聞き分けできない理由

では「日本語にない発音が聞き分けできない理由」について、もっとわかりやすく説明していきましょう。

「ruck」と「duck」の聞き分けは簡単にできるのはなぜ?

たとえば、こちらの2つの単語を聞き分けられるでしょうか?

  • ruck(多数)
  • duck(あひる)

では、音声を聞いてみてください。

ruck」duck」ruck」duck」の順に言っていましたが、問題なく聞き分けられたのではないでしょうか?

うん! 簡単だったよ!!

日本語には「ら行」「だ行」は別の音声である

なぜ聞き分けられるのかというと、日本語で「ら[ ɾa ]行」と「だ[ da ]行」は別の音声だからです。

今度は日本語の単語を聞いてみてください。何と言っているか、もちろんわかりますよね。

  • っこ
  • っこ

この2つの日本語を言っています。

「ら行」と「英語の R」は違う発音ですが、ここでは無視しています。

「らっこ」と「だっこ」の発音はかなり似ている

ここで、覚えておいてほしいポイントがあります。

それはこの2つの発音はかなり似ているということです。

もし、文脈がなくいきなり「らっこ」、もしくは「だっこ」とだけ発音されると「ん?」となるぐらい似ているのです

どちらも「歯茎(上前歯の後ろ根本あたり)」を使って出す音なので、どうしても似ているのです。

「ruck」と「luck」の聞き分けが難しいのはなぜ?

さきほど、「ruck」と「duck」の聴き比べが問題なくできたので、今度はこちらを聞いてみてください。

  • ruck(多数)
  • luck(幸運)

上の2種類を言っていたのですが、わかりました?

ruck」luck」ruck」luck」の順に発音しました。

いや、ぜんぜんわからない!

では、なぜ我々日本人には難しいのでしょうか? 逆に、英語圏の人はなぜ聞き分けられるのでしょうか?

英語は「 L 」と「 R 」の発音の区別が必要な言語

その理由はずばり、英語には「 L 」と「 R 」の発音の区別があるからです。

この2つの発音の区別ができないとコミュニケーションで問題が生じるからとも言えます。

たとえば、「 L 」と「 R 」の発音が混同してしまうと、これらの単語の区別が難しくなります。

LR
light(光)right(右・正しい)
luck(幸運)ruck(大勢)
lock(錠がかかる)rock(岩)
lice(louse: しらみの複数形)rice(米)
lace(レース: 透かし模様の編地)race(スポーツなどのレース)
lead(先導する)read(読む)
lag(ラグ: 時間差)rag(ぼろ切れ)
lane(レーン: 車線)rain(雨)
lake(湖)rake(くまで)
lap(ひざ)rap(音楽のラップ)
late(遅い)rate(比率)
law(法律)raw(生の)
leach(ろ過する)reach(達する)
lime(ライム: 果物)rhyme(韻を踏む)
load(荷物を積み込む)road(道路)
loom(織る)room(部屋)
long(長い)wrong(悪い)
clap(拍手)crap(糞)
clown(道化師)crown(王冠)
cloud(雲)crowd(群衆)
fly(飛ぶ)fry(油で揚げる)
play(遊ぶ)pray(祈る)
flea(ノミ)free(自由な)

これらはほんの一部です。数えきれないほどありますよ。

「clap(拍手)」と「crap(糞)」はどちらもカタカナだと「クラップ」と読みますが、英語で言い間違えると危険ですよね……。

「laっこ」と「raっこ」の区別は日本人には難しい

ではここで、日本語の「らっこ」を、「 l 」と「 r 」で「laっこ」と「raっこ」のように発音してみましょう。

どうでしょうか?

(ra)っこ」(la)っこ」(ra)っこ」(la)っこ」の順に言っています。

全部同じに聞こえるんだけど?

つまり、母語である日本語に「 L 」と「 R 」の区別がないため、我々には「 L 」「 R 」の発音の聞き分けができないということです。

日本語にある区別は英語でも聞き分けが簡単

さきほどの「ruck」と「duck」ですが、これも日本語に「ら行」と「だ行」の区別があるから、日本人に区別できるだけです。

もし日本語に「ら」と「だ」の区別がなければ「ruck」と「duck」の区別も困難だったはずでしょう。

似ている音なので。

逆に「ra行」と「la行」が日本語にあれば、日本人は「 L 」と「 R 」の違いで苦労しなかったんですねー。無念……。

自分の母語に違いがないと聴き分けられないという意味が、わかっていただけましたか?

【参考】英語圏の人が区別できない日本語

せっかくなので、英語圏の人がどうがんばっても聞き分けられない日本語の例を見てみましょう。

もっとも有名なものは、「長音(ー)」の有無です。

  • おばさん
  • おばーさん(おばあさん)

この2つですが、日本人にとっては「まったく別」に聞こえますよね?

でも、この区別は英語圏の人にとっては聞き分け不可能レベルの難しさです。

まさに、日本人にとっての「 L 」と「 R 」の違いレベルの難しさ!

では、なぜ区別できないのかと言うと、英語の発音にはこの2つの区別がないからです。

英語には存在しない違い

  • 母音を伸ばす
  • 母音を伸ばさない

これが「自分の母語にない音声の区別が極めて難しい」ということです。

そうです。発音で苦しんでいるのは外国人も同じなんですよ!

「聞き分け」の第一歩は発音の練習から

さて、この2つの違いですが、とにかく2つを区別して発音できるようになりましょう。

聞くときには文脈から意味がわかる場合がほとんどです。

寿司屋さんで「ローフィッシュ!」と聞こえたら、それは間違いなく「raw(生の) fish」です。

「law(法律) fish」なわけがありませんから!

でも、発音はちゃんと言えないと困る場合があります。

もちろん、相手側が推測してくれる場合もあると思いますが、「clap(拍手)」を「crap(糞)」と言ってしまったとしたら……。

Clap Crap your hands.
(うんち、手に)

え?!

文脈では「clap」だとわかってもらえると思いますが、でもねぇ……。

とにかく聞くときには違いがわからなくても、区別して言えるようにしましょうね。

英語の「聞き取り」よりも「発音」を先に練習するのがいい理由もご参考に!

まとめ

さて、今回は日本人にとってなぜ「 L 」と「 R 」の違いが絶望的にわからないのかについて紹介しました。

絶望的にわからないのは聞いたときの話で、自分で発音し分けるのはそこまで難しくありません。

どうやって発音するのかを知って練習してくださいね。

最後に、LとRの発音の違いと練習法はこちらを参考にしてください。

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アメリカ留学で言語に興味を持ち日本語教師に。その後、自分が「音声学」に猛烈に惹かれることに気づく。一般的には学ばない「日本語の音声」を学ぶことで英語の発音を習得し、独自の英語の発音習得メソッドを持つ。>>ヨスについて詳しくはこちら
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