日本語の「た行」には3つの子音が混在している

こんにちは! 発音マニアのヨスです。

日本語の「た行」をアルファベットで書いたとき、「ち」「つ」を「chi」「tsu」と書くことに疑問を持ったことはありませんか?

「た行」のアルファベット表記
ta chi tsu te to

じつはちゃんとした理由があるのです。

今回は、日本語の「た行」には [ t ] [ t͡ɕ ] [ t͡s ] という3つの子音が混在しているというお話です。

3つの子音の発音方法、本来の「あいうえお表」など、くわしく紹介します。

「た行」には3つの子音が入れ混じっている?

ビックリする事実ですが、「た行」には3つの子音が入れ混じっています

アルファベットで書いてみると「仲間はずれ」になっているものがわかると思います。

そうです。「chi(ち)」と「tsu(つ)」です。

ローマ字表記の法則に当てはまらない「た行」

ローマ字表記の法則として、たとえば「か行」なら「 k 」だけを使います。

「か・き・く・け・こ」ならローマ字で、「ka・ki・ku・ke・ko」と書きますよね?

これは「あ段〜お段」まで [ k ] の発音でそろっているので理解しやすいのではないでしょうか。

「か行」は [ k ] という子音の発音(のどの奥にある軟口蓋で破裂音を作る)でそろっているのです。

ヨス

「 [ k ] の発音でそろっている」というのは、口のなかで音声を作っている位置や発音方法がまったく同じという意味です。

ところが、「あ段〜お段」で子音がそろっていない行があり、そのうちの1つが「た行」なのです(ほかには「さ行」や「は行」も)。

次の表が「た行」の発音記号になります。

「た行」の発音記号
た(ta) [ ta ]
ち(chi) [ t͡ɕi ]
つ(tsu) [ t͡sɯ ]
て(te) [ te ]
と(to) [ to ]

「う段」を [ u ] ではなく、 [ ɯ ] と書いているのは、こちらのほうが日本語の「う」の発音に近いからです(参考: 日本語にある2種類の「う」について)。

「ち」と「つ」の子音が [ t ] ではないことにお気づきでしょうか?

「た行」を本来の「あいうえお表」に分類

実は「」と「」の子音は [ t ] の発音ではないため「た行」ではない「本来の行」に入るべきなのです。

本来の分類

  • ちゃ行
  • つぁ行

わかりにくいと思うので、こちらの「『た行』の本来の分類」をまとめた表をご覧ください。

「た行」の本来の分類
た行 ちゃ行 つぁ行
[ ta ] ちゃ [ t͡ɕa ] つぁ [ t͡sa ]
てぃ [ ti ] [ t͡ɕi ] つぃ [ t͡si ]
とぅ [ tɯ ] ちゅ [ t͡ɕɯ ] [ t͡sɯ ]
[ te ] ちぇ [ t͡ɕe ] つぇ [ t͡se ]
[ to ] ちょ [ t͡ɕo ] つぉ [ t͡so ]

なんと、「た行」には「た」「て」「と」だけが所属し、「ち」は「ちゃ行」に、「つ」は「つぁ行」に入ります。

逆に、本来「ち」のところには「てぃ」が来て、「つ」のところには「とぅ」が来るべきなのです。


3つの子音 [ t ] [ t͡ɕ ] [ t͡s ] の発音の違い

では、「た・て・と」と「ち」と「つ」の発音の違いですが、なにが違うのでしょうか?

発音の仕方に注目すると、どれも「無声(参考: 無声音・有声音について)」という共通点があります。

では1つ1つの発音を比べてみましょう。

「た・て・と」の子音は [ t ](無声歯茎破裂音)

まず、「た・て・と」の子音は [ t ] になります。

「た行」とは違う「ta行」の発音とは?

舌先を上前歯の後ろあたりで破裂させるように発音するのが [ t ] です。こちらの音声のような音ですね。

そして、この [ t ] に「あ・い・う・え・お」の発音をくっつけ、「ta行」を発音するとこちらのようになります。

「た行」と「ta行」の違いは「ち」と「つ」の部分です。

ヨス

「ta行」では「た・てぃとぅ・て・と」という発音になりますよ。

「ta行」の発音記号表

日本語の「た行」と、[ t ] に「あ・い・う・え・お」をくっつけた「ta行」の発音記号はこちらになります。

「た行」と「ta行」の比較
た行 ta行
た [ ta ] た [ ta ]
ち [ t͡ɕi ] てぃ [ ti ]
つ [ t͡sɯ ] とぅ [ tɯ ]
て [ te ] て [ te ]
と [ to ] と [ to ]

「ち」と「てぃ」、そして「つ」と「とぅ」の部分が大きく違いますよね。

[ t ] を発音するときの口の構え

この違いを紐解くためには、口のなかの構えを見ることが大切です。

前提として、[ t ] の発音は「歯茎」と呼ばれる場所(上前歯の根本)で作られます。

[ t ] の発音
[ t ] の発音

その「歯茎」に舌先を当て、口のなかに空気を集めるようなイメージで舌先を「トゥッ!」と言いながら離すと発音できます。

その舌の位置で、そして発音方法で、「い段」を発音すると「てぃ」に、「う段」を発音すると「とぅ」になりませんか?

[ t ] について詳しくは [ t ] の発音についてをご覧ください。

[ t ] の発音について


「ち」の子音は [ t͡ɕ ](無声歯茎硬口蓋破擦音)

続いて、「ち」の子音を詳しく見ていきましょう。

「ち」の子音は発音記号で書くと [ t͡ɕ ] になります。

「ちゃ [ t͡ɕa ] 行」の発音とは?

[ t͡ɕ ] は、[ t ] を発音するときの位置だけでなく、少し後ろの位置も含んだ広範囲の位置に舌を配置します。

専門的には「歯茎」と呼ばれる部分と、「硬口蓋(こうこうがい)」と呼ばれる部分です。

歯茎+硬口蓋音
歯茎+硬口蓋音

破裂音+摩擦音である破擦音で発音するのが [ t͡ɕ ] です。

そして、この [ t͡ɕ ] に「あ・い・う・え・お」の発音をくっつけ、「ちゃ [ t͡ɕa ] 行」を発音するとこちらのようになります。

どうでしょうか?「ち」って、「ちゃ行」にあるほうがしっくりきませんか?

ヨス

「ち」は本来、「ちゃ行」に所属する文字だったんです!

「ちゃ [ t͡ɕa ] 行」の発音記号表

日本語の「た行」と、[ t͡ɕ ] に「あ・い・う・え・お」をくっつけた「ちゃ [ t͡ɕa ] 行」の発音記号はこちらになります。

「た行」と「ちゃ [ t͡ɕa ] 行」の比較
た行 ちゃ [ t͡ɕa ] 行
た [ ta ] ちゃ [ t͡ɕa ]
ち [ t͡ɕi ] ち [ t͡ɕi ]
つ [ t͡sɯ ] ちゅ [ t͡ɕɯ ]
て [ te ] ちぇ [ t͡ɕe ]
と [ to ] ちょ [ t͡ɕo ]

先述しましたが、「た行」の「い段」には、本来「てぃ [ ti ] 」がくるほうがしっくりきます。

[ t͡ɕ ] を発音するときの口の構え

[ t͡ɕ ] の発音は「歯茎+硬口蓋」の広範囲の場所で作られます。

[ t͡ɕ ] の発音
[ t͡ɕ ] の発音(「ち」の子音)

その「歯茎硬口蓋(歯茎+硬口蓋)」の部分に、舌の真ん中より少し前(前舌)をくっつけます。

そして、くっつけているところを離した瞬間に「スキマ音」を作ることで [ t͡ɕ ] の発音が作られます。


「つ」の子音は [ t͡s ](無声歯茎破擦音)

最後に、「つ」の子音は [ t͡s ] になります。

「つぁ [ t͡sa ] 行」の発音とは?

舌先を上前歯の後ろあたりで破裂させるように発音するのが [ t ] でした。

[ t͡s ] の発音は、破裂させた瞬間に「スキマ音」を作り、次のような音声を作ります。

この [ t͡s ] に「あ・い・う・え・お」の発音をくっつけ、「t͡sa行」を発音するとこちらのようになります。

「つぁ [ t͡sa ] 行」の発音記号表

日本語の「た行」と、[ t͡s ] に「あ・い・う・え・お」をくっつけた「つぁ [ t͡sa ] 行」の発音記号はこちらになります。

「た行」と「つぁ [ t͡sa ] 行」の比較
た行 つぁ [ t͡sa ] 行
た [ ta ] つぁ [ t͡sa ]
ち [ t͡ɕi ] つぃ [ t͡si ]
つ [ t͡sɯ ] つ [ t͡sɯ ]
て [ te ] つぇ [ t͡se ]
と [ to ] つぉ [ t͡so ]

「つぁ行」というのは聞いたことがないかもしれませんが、日本語でも外来語を表記するときに普通に使われていますよ。

ヨス

「ピッツァ」とか「ツェッペリン」とか「カンツォーネ」とか!

[ t͡s ] を発音するときの口の構え

[ t͡s ] の発音は、[ t ] と同じく「歯茎」と呼ばれる場所(上前歯の根本)で作られます。

[ t͡s ] の発音
[ t͡s ] の発音(「つ」の子音)

その「歯茎」に舌先をくっつけ、離した瞬間に「スキマ音」を作り出す「破擦音」と呼ばれる方法で発音されます。



まとめ

今回は、「た行」には3つの子音 [ t ] [ t͡ɕ ] [ t͡s ] が混在しているというお話でした。

「た行」の発音まとめ

  • 「た・て・と」の子音 [ t ] (無声歯茎摩擦音)
  • 「ち」の子音 [ t͡ɕ ] (無声歯茎硬口蓋破擦音)
  • 「つ」の子音 [ t͡s ] (無声歯茎破擦音)

実は「さ行」や「は行」も同じです。ぜひこちらの記事もご参考に。

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ABOUT US
ヨス
アメリカ留学で言語に興味を持ち日本語教師に。その後、自分が「音声学」に猛烈に惹かれることに気づく。一般的には学ばない「日本語の音声」を学ぶことで英語の発音を習得し、独自の英語の発音習得メソッドを持つ。「ヨッセンス」という月間に100万回以上読まれている人気ブログも運営するプロブロガー。>>ヨスについて詳しくはこちら
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