コミュニケーション・ストラテジーとは?

コミュニケーションストラテジーとは
サト

執筆者

TOEIC980点。ELSA認定アンバサダー。インドネシアで日本語学校を運営している日本語教師。話せる言語は英語のほかにインドネシア語、中国語。→ サトについてはこちら

英語などの外国語で話をしていると、コミュニケーションがスムーズにいかないことがありますよね。

自分が使いたい単語を忘れてしまったり、相手が何と言っているのかわからなかったり。

そんなときでも、ちょっとしたコツを知っているとコミュニケーションを続けることができます。

この記事では、そんな「コミュニケーション・ストラテジー」について解説します。

コミュニケーション・ストラテジーとは?

コミュニケーション・ストラテジー」とはなにを指すのでしょうか。

「ストラテジー」は「戦略」という意味で、「コミュニケーションのための戦略」とも言えます。

『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験 分野別用語集』には、次のように解説されています。

言語力の不足などによりコミュニケーションがうまくとれない場合にとる方略のこと。

ヒューマンアカデミー著『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験 分野別用語集』(2018年 翔泳社)

コミュニケーションがスムーズにいかないときでも、なんとかコミュニケーションを進める方法ということですね。

さらに、次のようにも書かれています(太字はサトによる)。

回避・言い換え・意識的な転移・援助要求・ジェスチャーなどがその例である。

ヒューマンアカデミー著『日本語教育教科書 日本語教育能力検定試験 分野別用語集』(2018年 翔泳社)

例にある「ジェスチャー」というのは想像しやすいのではないでしょうか。

たとえば大きさを伝えたいときに、ことばで言えなくても、両手で大きさを示すとかんたんに伝わります。

つまり、自分の英語が相手に伝わらなくても「ジェスチャー」というコミュニケーションストラテジーをつかえば伝わるということです。

では「コミュニケーション・ストラテジー」がどのようなものなのか、「ジェスチャー」も含めて次項で解説します。

コミュニケーション・ストラテジーの例

つづいて、コミュニケーション・ストラテジーの例を見てみましょう。

次の5つについて、順にご説明しますね。

コミュニケーション・ストラテジー

  1. 回避
  2. 言い換え
  3. 意識的な転移
  4. 援助要求
  5. ジェスチャー

回避

まず、1つ目のコミュニケーション・ストラテジーが「回避」です。

「回避」というぐらいなので、なにかを避けるわけですが、どんなものを避けるのでしょうか。

それは、大きく次の2つです。

「回避」するもの

  1. 難しい話題
  2. 難しい文法・表現など

難しいものを避ける、というのは共通していますね。

順に見ていきましょう。

「難しい話題」を避ける

まず、コミュニケーションストラテジーとして回避するのは「難しい話題」です。

たとえば、わたしはインドネシアに住んでいて、日常会話レベルのインドネシア語は話せます。

ただ、わたしのインドネシア語のレベルでは、ついていけない話題もあるのです。

次のような話題は、自分からは取り上げませんし、取り上げられても、別の話題に変えてもらうようにしています。

わたしが「回避」する話題

  • 政治
  • 経済

このように「難しい話題」を避ければ、コミュニケーションが続くわけです。

「難しい文法・表現」などを避ける

つづいて、コミュニケーションストラテジーとして回避するのは「難しい文法・表現」などです。

使い方がよくわからない文法や表現などを避ける、ということですね。

たとえば、誰かにカバンを持ってもらいたい場合、次の表現が使えます。

I'd like you to carry my bag.
(カバンを持ってほしいんだけど)

ただ、語順が少し複雑かもしれません。

「I'd like to〜」を使い慣れていると、「I'd like you to〜」は余計に難しい……。

このような場合、たとえば次のように言うといいでしょう。

回避の例

This bag is heavy. Can you help me?
(このカバン、重いんだ。手伝ってくれない? )

「I'd like you to〜」を使うのを避けた上で、目的は果たせます。

このように、「難しい文法・表現など」を避けるのが、2つ目の「回避」です。

言い換え

コミュニケーション・ストラテジー、2つ目は「言い換え」です。

「言い換え」は想像しやすいと思うのですが、あることばを別のことばで言うことですね。

たとえば、わたしは日本語の授業で、自分の甥(おい)の写真を見せて、学生に紹介しようとしたことがあります。

ところが、「甥(おい)」に当たるインドネシア語が思い出せず……。

妹の男の子ども」とインドネシア語で説明して乗り切りました。

意味が似ていることばを使うのも「言い換え」

また、発音がニガテな英語のことばがある場合、似た意味のことばを使うのも「言い換え」です。

たとえば、「たぶん」という意味の「probably」。

probably」には区別の難しい「 R 」と「 L 」の発音が含まれてれているので、発音するときに緊張してしまいます……。

この場合、「probably」の代わりに「maybe」を使うのも「言い換え」のひとつです。

ただし、「probably」と「maybe」は、厳密には違います

話し手がどれぐらい確信しているか(自信があるか)がポイントで、違いは次の通り。

確信度の違い

  • probably: 80%ぐらい確信
  • maybe: 50%ぐらい確信

こういう違いに気をつけながら、うまく「言い換え」を使いましょう。

「言い換え」は手持ちのカードをいかに効率よく使うか、まさにストラテジー(戦略)ですね!

意識的な転移

コミュニケーション・ストラテジーの3つ目は、「意識的な転移」です。

と言っても、これ、ピンと来ませんよね……。

『日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド 第2版』という本には、「意識的な転移」の説明として、次のとおり書いてあります。

直訳したり母語を使用したりする。

ヒューマンアカデミー著『日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド 第2版』(2011年 翔泳社)

シンプルな説明なんですが、シンプルすぎるので補足しますね。

直訳する

まず、「直訳する」ということについて。

たとえば、友人からこんな話を聞きました。

英語で話していたとき、「無精ぶしょうひげ」と言いたかったのですが、そんな単語は知りませんでした。

無精ぶしょうひげ」は英語で「stubble」だそうですが、わたしも調べて初めて知りました……。

そこで、「無精→怠惰だから『lazy』」を使って「lazy beard(めんどくさがりのあごひげ)」と直訳。

すると、コミュニケーションが成立しただけでなく、「詩的ですばらしい! 」とほめてもらえたそうです。

手持ちの英単語で何とかコミュニケーションを取れるようになると、英語を話すハードルが低くなりますね。

母語を使う

それから「母語」を言い換えとして使う例です。

たとえば、「屋上おくじょう」を英語でどう言えばわからない場合、ひとまず「okujo」と言ってしまうんです。

次のような感じで。

母語を使う例

I saw her on okujo.
(屋上で彼女を見かけたよ)

「屋上」という日本語を相手が知っていれば、これでコミュニケーションが成り立ちます。

相手が知らなかったら、どうしようもないんじゃ……?

……と思ったかもしれませんね。

相手が知らない場合は、次のように、他のストラテジー(言い換えなど)を使うことでコミュニケーションを続けられるでしょう。

I saw her on okujo.
(屋上で彼女を見かけたよ)

What is okujo ?
(「okujo」って何?)

It's a top of the building.
(ビルのいちばん上)

Oh, you mean a rooftop.
(ああ「rooftop=屋上」のことだね)

コミュニケーションストラテジーは、2つ以上使っても当然OKです。使えるものは何でも使いましょう!

援助要求

コミュニケーション・ストラテジーの4つ目は「援助要求」です。

これは「助けを求める」ということで、想像しやすいのではないでしょうか。

たとえば次のような例があります。

「援助要求」と英語の表現の例

  • 聞き取れなかったときに聞き返す
    (「Sorry? 」)
  • わからないことばの意味を確認する
    (「What does 〜 mean? 」)
  • ゆっくり話してもらう
    (Could you speak more slowly ? 」

日本語の会話でも、ふつうにやっていることですね。

ジェスチャー

コミュニケーション・ストラテジー、最後は「ジェスチャー」です。

冒頭でも書きましたが、身振り手振りでコミュニケーションを取るというストラテジーですね。

たとえば、静かにしてほしいときに、人差し指を口の前に立てるのもジェスチャーです。

ちなみにこのジェスチャー、英語でも同じなんですよ。詳しくは シー(静かに!)は英語でなんて言う?をご覧ください。

とはいえ、同じジェスチャーも、文化圏によっては違う意味になることがあるので注意しましょう。

こちらのインスタ投稿もご参考に。

ちなみにこちらの書籍もおすすめですよ。

国・性別によるジェスチャーの違い、海外ではOKなジェスチャー、日本独特のジェスチャーなどが満載です。

コミュニケーション・ストラテジーはずるい?

ここまで読んできて、こんなことを思ったかもしれませんね。

なんかずるい感じがする……。ちゃんと勉強したほうがいいんじゃね?

そんなことはありません。コミュニケーション・ストラテジーは、決して「ずるいやり口」ではありません

むしろ、「文法能力」などと並んで、「コミュニケーション能力」の1つに数えられているんですよ。

 「コミュニケーション能力」について詳しくは、コミュニケーション能力とは?をお読みください。

個人的にも、次のような理由でコミュニケーション・ストラテジーを使うのは理にかなっていると思っています。

順に見ていきましょう。

外国語学習を補(おぎな)える

まず、外国語学習を補えること。たとえば、さきほど紹介した「言い換え」について考えてみましょう。

無数にある外国語のことばをすべて覚えるのは、現実的ではありません

母語である日本語のことばだって、ぜんぶ知っているわけではありませんからね。

でも、知らないことばも、自分が知っていることばで言い換えられれば、それでコミュニケーションが成り立ちます。

そうすることで、ことばを1つ覚える時間を節約できますよね。

ことば1つなら節約できる時間はたかが知れていますが、これが何十、何百となるとけっこうな時間になるはずです。

母語でも使っている

それから、コミュニケーション・ストラテジーには、母語でふつうに使っているものもあります

日本語の会話でも、次のようなことをしていませんか?

コミュニケーション・ストラテジー例

  • ジェスチャーを使う
  • 子どもが相手なら難しいことばを簡単なことばで言い換える
  • 自分が知らないことばを相手が使ったときは、意味を確認する

母語でも使っているストラテジー、外国語でも使わない手はありませんよね。

まとめ

この記事では、「コミュニケーション・ストラテジー」について解説しました。

まとめると、次のとおりです。

まとめ

  1. 「コミュニケーション・ストラテジー」は、コミュニケーションがスムーズにいかないときに、コミュニケーションを進める方法である
  2. 「コミュニケーション・ストラテジー」には、回避・言い換え・意識的な転移・援助要求・ジェスチャーなどがある
  3. 「コミュニケーション・ストラテジー」を使うのはずるいことではなく、理にかなっている

コミュニケーション・ストラテジーで、コミュニケーションをうまく進めましょう。

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サト
インドネシアで日本語学校を運営している日本語教師。独学でTOEIC980点をマークした秘密が受験英語が好きだったという特異体質。オンライン英会話や電子書籍を試すことにハマっている。>>サトについて詳しくはこちら
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